まだビームが撃てない

レーザーはもう撃てる

魚を叩きつけていた


海沿いの狭い道を歩いていて、魚を叩きつけて殺害してるらしきお爺さんを見た


殺害、という言葉は物々しくて、逆にいいね…。あんまり物騒な言葉を使うのは、インターネットの利用法として良いことではないかもしれないが

東京03のラジオを聴きながら海沿いの、通行人の利用の少ない道を歩いておった。少し先に軽トラが止まっているのが見えた。30メートル先くらい。軽トラの向こう側でなかなか腰の曲がったお爺さんが、50cmくらいの魚の尾を握っているのがチラチラ見えた

軽トラの荷台には発泡スチロールがあったから、釣った魚を持ってきたのだろうか? このあたりの海域ではよく見かける(らしい)魚。ボラという魚。あまり海が綺麗な一帯ではないため、そこで釣れる・獲れるボラは匂いが凄まじい。雑食性の魚でヘドロなどを食べるため、汚れた海の底に沈殿したものばかり食べとるわけだから、この辺りのボラマジでクッサイということ。離れていながら俺がボラだと分かったのも、その生くっせえ体臭が潮風にのって香ってきたからだ

ボラはかなり繁殖性が高いので、近くの港などでは10匹以上が群れているのがよく見える。さらに、よく食うので体格がでかくなりがち。めちゃくちゃだよ…あの魚…

ボラの悪口に話がそれてしまった。罪のないボラの名誉のために言っておくが、ボラは食用として広く使われる魚でもある。水質が綺麗な海域のボラは臭くないらしいし。寒ボラって聞いたことない? ボラの卵巣を塩漬けにして作られる高級食材のカラスミも有名だね


とにかくそのおじいさんは、ボラを叩きつけて殺害したらしい。決定的瞬間は見えなかったけど、おじいさんはボラを手にしたまま軽トラの影でしゃがみこんでしばらくそのままだった。横を通り過ぎるために近づくていくと、ボラの生臭い匂いは強烈になっていく。俺が軽トラの横を通り過ぎるそのとき、おじいさんは首がひん曲がってエラが露出したボラを手に持っていて、地面には立派に真っ赤な血溜まりを作っていたのであった

おじいさんは手に道具を持っていなかったから、叩きつけて殺害したのかな…なんて思ったけど、今思えば頭を踏みつけたのかもしれない。とにかくボラの頭は反りかえっていて、その体には砂や砂利がたくさん付着していた。頭がブチ折れていたボラと、目があった気がした…なんてオシャレなことを書きたかったけど、驚くほど目は合わなかった。その場では生臭さだけでなく血の匂いも強烈に香っていて、このボラの血を使った拷問とかあったら、俺は耐えられないなあ…とか考えていた

おじいさんは横を通り過ぎる俺を認識していただろうが、一瞥することもなく、もはや頭が胴体から取れかけているボラをゆっくりと軽トラの荷台の発泡スチロール箱に仕舞っていた。俺は横を通り過ぎた後も様子が気になり、8回は振り返って様子を見ていたけど(見過ぎ)、おじいさんは俺の方は一度も見ずに軽トラに乗り込み、ボラ(故)の収まった発泡スチロールを荷台に乗せて車を走らせていった


あのボラは持って帰って食べるんだろうか? あの生臭さがが気にならないなら、大型の魚ではあるので過食部は多いし、食べ応えはあるのかも。でも、あんなに全身にべっとりと砂と砂利をつけた魚を食べるのって、なんかヤだなあ。もっといい場所とかあったんじゃないか。てか、なんであんなところで殺害したのだろう? 匂いがするとか、血が出るとか分かっているから? というか釣ったそのあとに殺害すればいいのに、なぜ軽トラでわざわざ運んできて人通りの少ない道端で実行したのか? というか、釣り場から離れているだろうからボラはあの時点で死んでいたんじゃないだろうか。なぜあそこでボラの頭をブチ折ったのか?なぜ? なぜなぜなぜなぜなぜ

なぜがたくさん出てきてしまう

あのとき俺はゆっくり走り去る軽トラを追いかけておじいさんに答えを聞くべきだったな。聞かなかったから、もう一生あのときのおじいさんの行動の理由と目的を知ることはないだろうか。まあ人見知りだし知らない人にそんなこと聞かないけど…。それに聞いてみたら、きっと合理的で「ははぁ〜、なるほど。」と思うような簡潔な理由が返ってきて終わりだろう

また同じような時間帯にこの道を思っていれば、あの軽トラに遭遇することもあるだろうか? またしても魚を叩きつけて立派な血溜まりを作るのかもしれない。その時は、どうしてここで? と勇気を出して聞いてみたい

そんなことを考えながらしばらく歩いて、また振り返ってみたら軽トラはとっくに見えないところまで走り去っていて、もう小さく見える血溜まりは、立派だねえ。と感じるくらいの真っ赤だったんです


川崎でした。